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札幌高等裁判所 昭和54年(ラ)20号 決定 1979年8月31日

抗告人(原審原告)

佐々木真佐子

右訴訟代理人

横路民雄

外二名

相手方(原審証人)

島田英重

(原審被告)

株式会社北海道新聞社

右代表者

上関敏夫

右訴訟代理人

斎藤忠雄

外二名

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。証人島田英重の証言拒絶は理由がない。」との裁判を求めるというのであり、抗告の理由は別紙「抗告の理由」に記載のとおりである。

二本件申立に対する当裁判所の判断は次のとおりである。

(一)  本件記録によれば、事実関係の経緯は次のとおりであることが認められる。

(1)  札幌地方裁判所昭和五二年(ワ)第一六五二号謝罪広告等請求事件(以下本件訴訟という)において、原告たる抗告人は、原審被告に対し、原審被告が発行する日刊新聞紙北海道新聞昭和五二年六月二四日付朝刊に、「保母が園児をせつかん?」の見出しのもとに、篠路高洋保育園保母である抗告人が、あたかも園児に対し暴行に及んだかの如き印象を一般読者に与える記事を掲載し(以下右掲載記事を本件記事という)、因つて抗告人の教育者としての信用及び名誉を著しく毀損したとして、謝罪広告の掲載及び慰藉料の支払を求めた。

(2)  右抗告人の主張に対し、原審被告は本件記事掲載の事実は認めたが、本件記事は伝聞形式の表現方法を使用しているから、これによつて抗告人の信用・名誉が毀損される余地はなく、仮に本件記事中に抗告人の名誉を毀損する部分があつたとしても、本件記事は公共の利害に関連し、かつ専ら公益を図る目的に出たものであつて、その内容は総て真実であり、また仮に本件記事中に真実に反する部分が存在したとしても、原審被告は事前に十分の裏付取材を行つたうえで本件記事を掲載したものであつて、それが真実であると信ずるについて相当の理由があつたから、原審被告には不法行為責任はないと主張した。

(3)  原審被告は右主張事実を立証するために本件記事の取材を担当した原審被告の社会部記者である相手方島田英重を証人として申請し、原審において、昭和五四年四月一八日午後三時相手方に対する証拠調が実施されたが、右証拠調期日において、相手方は、原審被告訴訟代理人の主尋問に対し、篠路高洋保育園の保母以外の職員は五名いるが、そのうちの三名から取材したこと、更に札幌北警察署の刑事二、三名からも取材したことを証言したが、抗告代理人が反対尋問において、右取材対象者の氏名・住所・担当職務を明らかにするよう求めたところ、同証人は、取材源を明らかにすることは職業の秘密に関する事項に該当するとの理由でその証言を拒絶した(以下本件証言拒絶という)。

(4)  抗告代理人が、右証言拒絶は理由がない旨主張したので、原裁判所は、同年五月三〇日相手方の証言拒絶は理由がある旨の証言拒絶についての決定をした。

(二)  ところで、証言拒絶の当否についての裁判に対しては、右裁判によつて不利益を受けた当事者及び証人は即時抗告をすることができるところ(民事訴訟法二八三条二項)、反対尋問の権利は法律上保障されているのであるから(同法二九四条)、相当な反対尋問に対して、証人が証言を拒絶した場合は、その拒絶の当否についての裁判によつて不利益を受けた反対尋問権者は、右裁判につき即時抗告の利益を有するものと解すべきであつて、即時抗告権者を証明責任を負担する者に限定すべき理由はない。

そこで本件についてみると、前記(一)において認定した事実によれば、抗告代理人のした反対尋問は、主尋問に関連する事項及び相手方の証言の信用力に関する事項であつて、相当な反対尋問の範囲内にあると認められるから、右反対尋問に対する相手方の証言拒絶を理由ありとする原審決定に対する抗告人の抗告権は肯定されるべきである。

(三) 民事訴訟法二八一条一項三号において「職業ノ秘密」につき証言拒絶が認められているゆえんは、これを公表すべきものとすると、社会的に正当な職業の維持遂行が不可能又は著しく困難になるおそれがある場合にこれを保護することにあると解されるところ、これを本件について考えてみると、新聞記者の側と情報を提供する側との間において、取材源を絶対に公表しないという信頼関係があつて、はじめて正確な情報が提供されるものであり、従つて取材源の秘匿は正確な報道の必要条件であるというべきところ、自由な言論が維持されるべき新聞において、もし記者が取材源を公表しなければならないとすると、情報提供者を信頼させ安んじて正確な情報を提供させることが不可能ないし著るしく困難になることは当然推測されるところであるから、新聞記者の取材源は右「職業ノ秘密」に該ると解するのが相当である。しかしながら他方、民事訴訟においては、公正な裁判の実現という制度的目的が存するのであるから、職業の秘密を理由とする取材源に関する証言拒絶権は、民事訴訟における公正な裁判の実現の要請との関連において、制約を受けることがあることも否定することはできない。そして、右制約の程度は、公正な裁判の実現という利益と取材源秘匿により得られる利益との比較衡量において決せられるべきであり、そのうち公正な裁判の実現という点からは審理の対象である事件の性質、態様及び軽重(事件の重要性)、要証事実と取材源との関連性及び取材源を明らかにすることの必要性(証拠の必要性)が問題にされるべきであり、一方取材源に関する証言の拒絶という点からは、取材源を明らかにすることが将来の取材の自由に及ぼす影響の程度、更に右に関連する報道の自由との相関関係等が考慮されるべきであり、これらをそれぞれ慎重に比較衡量して、取材源に関する証言拒絶の当否を判断すべきである。そして、右証拠の必要性は、当該要証事実について、他の証拠方法の取調がなされたにもかかわらず、なお取材源に関する証言が、公正な裁判の実現のためにほとんど必須のものであると裁判所が判断する場合において、はじめて肯定されるべきである。

(四) 以上の見地から本件について考えてみると、前記(一)において認定した事実によれば、(1)新聞記者である相手方にとつて、本件記事に関する取材の相手方氏名、住所、担当職務を明らかにすることは、同人と右取材の相手方との信頼関係を破壊するものであることは勿論のこと、これによつて相手方島田の将来の取材活動が制約されることが一般的に推測されるから、右取材源に関する事項は相手方島田につき、民事訴訟法二八一条一項三号にいう職業の秘密に該当するということができる。(2)次に本件訴訟は、原審被告たる新聞社による抗告人の名誉毀損を理由とする通常の一般的民事訴訟事件であつて、抗告代理人による前記反対尋問は、原審被告の前記抗弁事実に関連し、相手方の取材活動の存否、状況、内容を直接追及することによつて、相手方の証言の信用性を減殺し、かつ抗告人の主張を補強する目的のもとになされたものであるから、相手方の本件証言拒絶によつて抗告人の右目的が阻害されることになるといえるのであるが、取材源の秘匿につき証言拒絶権を肯定した前記制度の趣旨及び相手方が、前記の通り概括的範囲においてその取材源を明らかにする証言を行つていること等を斟酌考慮すると、抗告人としては、これらの限定された範囲の取材源につき調査を実施する等適切な証拠収集の措置をとることによつて、前記反対尋問の目的とするところを実現することは不可能ではないと推測することができるから、前記説示するところに従い、相手方に対し取材源についての、抗告人の本件反対尋問に対する証言をなさしめることが、本件につき公正な裁判を実現するためにほとんど必須のものであることを未だ肯定することができないというほかはない。

よつて相手方の本件証言拒絶は理由があるというべきである。

(五)  抗告代理人は、相手方は原審被告の主張する取材活動の正当性を一応裏付ける限度においては取材源を概括的に特定し、それ以上踏み込んだ抗告人の反対尋問に対しては、取材源の秘匿を理由に証言を拒絶するという態度をとつているものであつて、かかる態度はみずからの取材活動の不備を隠蔽する訴訟妨害行為であるのみならず信義則に反する不公正な態度であるというべく、更に証言拒絶権の濫用として許されないと主張しているのでこの点について考える。

前記(一)において認定したとおり、相手方は概括的範囲において本件記事に関する取材源について証言したものの、抗告人の右取材先の氏名、住所、担当職務を明らかにすべきことを求める反対尋問に対しては、その証言を拒絶していることは所論のとおりであるが、もともと取材源が新聞記者の職業の秘密に属するからといつて、これに関して全面的に証言拒絶が肯定されるものではないことは前説示のとおりであつて、新聞記者が、係争の新聞記事が事実に基く取材によつて書かれており、その事実の取材も十分信用するに足りるものであることを明らかにするために、ある程度取材源について証言することは、本来尋問事項につき、可能な限り証言義務を負う証人の態度として何ら非難されるべきものではないというべきであつて、これをもつて訴訟妨害行為であり、また信義則に反する不公正な態度であり、更に証言拒絶の濫用であるということはできないものというべきところ、本件記事の取材先に関する相手方の前記証言の程度及び態度も、右趣旨に基くものであることが本件記録上認めることができるから、これをもつて、本件訴訟の遂行を妨害する行為であり、また信義則に反する不公正な態度であり、更に証言拒絶権の濫用であるとすることはできない。従つて抗告人の前記主張はすべて採用することができない。

三以上説示する通りであるから、相手方の証言拒絶は理由があるとなすべきところ、これと同趣旨の原決定は相当であつて、抗告人の本件抗告は理由がないから民事訴訟法四一四条、三八四条一項に従いこれを棄却することとし、手続費用の負担につき同法九五条但書、八九条を適用し、主文のとおり決定する。

(安達昌彦 渋川満 大藤敏)

別紙

抗告の理由

第一、抗告の利益

抗告人(原告)は、本件証言拒絶によつて挙証上並びに訴訟追行上、不利益を受けたものであるから即時抗告の利益を有する。

一、本件訴訟は、被告会社の不法行為として民法七〇九条、同法七二三条に基づき名誉侵害行為に対する損害賠償並びに名誉回復措置としての謝罪広告を求めるものであるから、抗告人(原告)において、第一義的に、被告会社の故意・過失を、より正確に言えば、取材をした記者の取材活動の不備・偏頗性、判断の誤り、更には編集過程の過失を立証しなければならない立場にある。

従つて、証人島田英重の本件証言拒絶は、正に本件訴訟の最大の争点である要証事実の立証の機会を原告から奪うものであるから、本件証言拒絶による不利益は、抗告人(原告)に帰すると言わなければならない。

二、仮に、立証責任の分配として、本件訴訟において、刑法二三〇条の二に定める〔事実の証明〕の規定と同様に、本件記事が専ら公益を図る目的に出たこと及び真実であることの立証責任が被告会社にあるとしても、立証責任とは「訴訟上の権利又は法律関係の存否を判断するのに必要な事実について、訴訟に現われた一切の証拠資料によつても裁判所が存否どちらとも決定しかねる場合に、当事者の一方が被る不利益」を言うのであり、裁判所が審理を尽くした後に適用のある問題であるから、審理を尽くす以前に、単に立証責任が被告会社にあり証人島田英重の証言拒絶の不利益は、最終的に被告会社が負うことになるからという理由で、原告側に、証言拒絶による不利益がないということは出来ない。

何故ならば、本件訴訟の争点につき、最終的な立証責任の帰属とは別に、公正な裁判を実現するための実体的真実発見の要請から、原・被告双方とも攻撃・防禦を尽くすことは、権利であると同時に義務でもあるとされているからである。

この意味で、本件訴訟の争点である取材活動の不備、偏頗性を衝く原告の立証を証人島田英重の証言拒絶を認めることによつて奪つた不利益は、当然に原告にも帰するから、抗告人(原告)に抗告の利益はあると言わねばならない。

第二、抗告の理由

一、

(本件訴訟の特殊性と本件証言拒絶の意義)

1 本件訴訟は、いまや立法・行政・司法に次ぐ「第四権」と称されるまでに強大な力を蓄えた新聞マスコミの誤つた報道による人権侵害につき名誉を毀損された被害者原告が加害者である被告新聞社に対し、謝罪広告の掲載と慰謝料の支払を求めたものである。

従つて、本件訴訟の争点は、自ら誤報記事を書いた記者の取材活動が適正であつたのか否かの点にしぼられてくる訳で、その意味で、当該記者が取材の過程で情報を誰からどのように収集し、どう判断し処理したかこそが最重要な要証事実ということができるのである。

証人島田英重の本件証言拒絶は、正に、この最重要要証事実について証言を拒絶したものであり、実質的に島田証人自身の取材活動の適否が問われていること、(島田証人の実質的当事者性)に鑑れば、本件証言拒絶は取材源の秘匿に名を藉りた、自らの取材活動の不備を隠蔽する訴訟妨害行為と言わなければならない。

(新聞報道の二面性と取材源秘匿の効果)

2 一般論として、新聞による報道は、民主主義社会において国民が国政に関与するにつき重要な判断の資料を提供し国民の「知る権利」に奉仕するものであり、「社会の公器」とも言うべきものである。そして、その社会の公器としての報道の使命が十分に全うされるためには、取材の自由が認められねばならず、効果的な取材のために取材源の秘匿が認められなければならないことも、また論を待たない。

しかし、他面、新聞報道は、いまや「第四権」と言われる程に現代社会にあつて大きな社会権力を帯有するに至つており、その報道が誤つてなされた場合には計り知れない程の影響力をもつて回復不能な人権侵害を惹起することも、また珍しくないのである。

この場合には、新聞は「社会の公器性」を一瞬のうちに「巨大な攻撃性」に転化せしめてしまうのである。

こうした新聞報道による二面性を考慮するならば、裁判上における「取材源の秘匿を論ずる場合、社会の公器性の面からのみ取材源の秘匿を見ることは余りに片面的と言わなければならないであろう。

新聞の「巨大な攻撃性」が問題となつている場合、抽象的一般的に「取材源の秘匿」を認めることは、かえつてその攻撃性の矛先を隠蔽する結果になりかねないからである。

従つて、裁判における取材源の秘匿を理由とする証言拒絶を認めるか否か、の基準を樹てるにあたつては、少なくとも後者の弊害をチエツクできるだけの内容を備えたものでなければならないと言うことができる。

(原決定の基準に対する批判)

3 右の観点から原決定の基準を吟味してみると、原決定は新聞の「社会の公器性」の側面を強調することによつて取材源の秘匿の利益を認め、それと対立する利益として「実体的事実に適合する公正な裁判の実現」という制度目的を対置させ、その比較衡量のうえに立つて「証言拒絶を認めることによつて一方当事者の立証の道を閉ざし、双方審尋主義に背反する極めて不公平な裁判を招来することになるか否か」がその限度を画する基準だとしている。しかし、右基準では限界を画する基準として余りに杜撰であり、本件訴訟のような当該報道の適否それ自体が問われている事件において、安易な「取材源の秘匿」の結果、本来の争点である取材活動の有無、内容、対象及び判断の過程の最重要要証事実が常に隠蔽され、うやむやにされてしまう弊害をチエツクすることはできないであろう。

蓋し、立証方法の唯一性を基準とする限り、取材源それ自体が要証事実であるかないかは関係がないことになるから、新聞の「巨大な攻撃性」が問題となつている場合、即ち、当該報道の適否自体が問題となつている場合であつても、立証の手段が他にあれば、取材源秘匿による証言拒絶は認められることとなり、抽象的には取材源を秘匿されても、原告被害者の側で自ら取材源それ自体を直接探索し、証人として申請する方法は常に残されているからである。

しかし、実質的に見て、探索調査能力に欠ける被害者側に、取材源を直接証人として申請することは不可能であるから、この種、新聞報道等による人権侵害事件の場合、結局のところ、取材源秘匿を理由とする証言拒絶権の行使については、専ら新聞社の良識に期待する以外方法がないことになつてしまうであろう。

しかしながら悲しむべきことに新聞社の良識、自制が期待できないところにこそ、本件訴訟の如き新聞報道による人権侵害事件が発生しているのである。

従つて、原決定の基準では、抗告人が現実に蒙り、かつ将来に渡つても危惧する弊害を除去することは、到底出来ないと言わなければならない。

(結論)

4 以上のような原決定の基準に対する批判を踏まえて、「取材源の秘匿」を理由とする証言拒絶権の限界を定めようとすれば、一般論としては「取材源の秘匿」による利益と「公正な裁判の実現」という利益を比較衡量して決すべきであり、その比較衡量にあたつて用いられるべき基準は、原決定が述べる如く、代替立証の可能性の点のみではなく、更に、審判の対象とされている事件の性質、態様、取材源と要証事実との関連性、取材源を明らかにすることの必要性の有無、程度及び取材源を明らかにすることによつて将来の取材の自由に及ぼす影響の度合、その他諸般の事情を考慮して決すべきである。

少なくとも、拒絶権行使の限界を画する基準としては、当該取材源、取材内容が重要要証事実に該当するのか否かの点を抜きにして考えることは出来ず、取材源を明らかにすることが、その要証事実立証のために必要不可欠である場合には、たとえ一般的には新聞記者の取材源が民事訴訟法二八一条一項三号にいう「職業の秘密」に該当するとしても、同条項に基づく証言拒絶は認められないと解するのが相当である。

この点、原決定の基準定立は、比較衡量の基準としては甚だ不備と言わなければならず、「本件は、証人の証言拒絶によつて一方当事者の反証の機会が全く奪われ、不公平な裁判を避けられないというような事案ではない。」との判断だけで、本件証言拒絶を正当と認めた原決定は、審理不尽の違法があるので、抗告人は右決定の取消を求める。

二、仮に、原決定の基準を是認したとしても、本件は正に証人島田英重の証言拒絶を認めることによつて、抗告人(原告)の立証の道を閉ざすものであり、双方審尋主義に背反する極めて不公平な裁判を招来する結果になる場合であるから、本件証言拒絶は理由がない。

即ち、

(一) 本件訴訟の争点は、記事に記載された暴行の事実の存否であるが、それは、具体的には記事を書いた島田英重記者の取材活動が真実なされたものか否か、及び現実に取材したとして誰からどのような情報をどのような方法で収集し、それをどのように判断し処理したかということである。従つて、原告訴訟代理人の尋問は反対尋問の形式を採つてはいるが、これは被告側申請であることを利用したことの反映であつて、実質的には、正に本件訴訟の最重要要証事実についての尋問である。

原決定は、原告訴訟代理人の尋問の目的を「証人の証言の信用性を弾劾し、ひいては原告の主張を側面から補強しようとの目的に出たもの」と限定的に理解しているが、原告側の尋問意図は、直接、取材過程を明らかにすることによつて、島田記者の取材活動の杜撰さ、偏頗性、判断の誤りを明らかにしようとしているものであるから、原告側の要証事実についての直接的立証方法である。

従つて、右の諸点につき島田証人が「取材源の秘匿」を理由に証言を拒絶し、裁判所がこれを正当と認めることは、原告から最重要要証事実の直接的かつ不可欠の立証方法を奪うことに他ならない。

(二) 原決定は、「証人の証言の信用性の弾劾」のためには、証人に対する反対尋問の方法によることの他、新たな証拠を提出して右目的を達成することも可能であると述べ、本件における具体的方策として、概括的に明らかにされた「取材の相手方が実在するか否か及びその内容を調査すること」が「不可能ではない」という。

尋問目的の理解が誤まつている点は(一)で述べたとおりであるが、代替立証の方法があるから、本件証言拒絶を認めても一方当事者(原告)の立証の機会が全く奪われる訳ではないとする議論は、証人申請の実態を無視した空論という他はない。原告において、取材された相手であるという「篠路高洋保育園の従業員五名のうち三名」「札幌北警察署の刑事二、三名」を特定することが至難の業であることは、原告が一私人でありその調査能力もないことを想起すれば自明であろうし、ましてや、本件訴訟の重要証人である高洋保育園園長高見岩雄の証人尋問出頭拒否に端的にみられる如く、園自体の非協力の態度が厳然と明らかになつていることに思いを至せば、原告において取材源を独自に探索して、原告自ら証人申請するということは凡そ不可能と言わなければならないのである。

なるほど、篠路高洋保育園従業員全員並びに札幌北警察署所属の刑事全員を証人申請して、先ず本件事案につき島田記者から取材を受けたか否かを尋問して取材の相手方を特定することは外形的には可能であろうが、「証人を特定するための証人申請」がいかに非常識、非現実的であるかは今更、言うまでもないであろう。

従つて、原決定の言う代替立証の方法なるものは、いずれも観念的抽象的なものであり、実効性ある代替手段とはなりえないものであるから原決定の結論を導く根拠となり得ず、この点からも本件証言拒絶を認めることは相当でない。

実効性のある代替立証の方法が存在しないことは、却つて、本件証言拒絶によつて原告の不可欠的立証方法が奪われることを明白に物語つているから、原決定は基準の具体的適用を誤つたものと言うべく取消されるべきである。

三、本件証言拒絶は、信義則に違反しており証言拒絶権の濫用である。

被告側申請の証人島田英重記者は、証言拒絶の理由として、「取材した相手方を特定することはニユース・ソースに直接触れることになり、私が取材した相手に迷惑をかけるおそれがあります。」と述べておりながら、全面的に取材源を秘匿する訳ではなく、被告会社の主張する取材活動の正当性を一応裏付ける限度においては取材源を概括的に特定し、それ以上踏み込んだ尋問に対しては「取材源の秘匿」を理由に証言を拒絶するという態度をとつている。

これは、極めてアンフエアな証言拒絶権の濫用と言うべきものである。何故ならば、真に取材源を秘匿する必要があり、真摯に記者としての倫理を守ろうとしているのであれば、主尋問、反対尋問を問わず、取材源を特定する事項すべてにつき全面的に証言を拒絶するのが筋であるからである。

逆に、主尋問においてかなりの程度に取材源の特定をなしうるということは、それは証人において取材源の秘匿の必要性は微弱であると判断したものと推認することができるから、原告において、証言拒絶権の放棄の意思表示と考え、反対尋問では取材源の秘匿を理由とする証言拒絶はないであろうと考えるのは合理的である。

それにも拘らず、証人が反対尋問において取材源の秘匿を理由に証言を拒絶することは一方当事者、即ち原告の不利益のためにのみ証言拒絶権を行使しているものと言わざるを得ないから、信義則並びに公平原則に反すること明白である。

従つて、本件証言拒絶は「取材源の秘匿」に藉口した証言拒絶権の濫用であるから、本件証言拒絶を理由ありとした原決定は取消されなければならない。

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